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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)1642号 判決

昭和四六年(ネ)第一六六五号事件控訴人 (以下、「控訴人」という。) 親栄プロパン株式会社

右代表者代表取締役 徳江和夫

昭和四六年(ネ)第一六六五号事件控訴人 同年(ネ)第一六四二号事件被控訴人 (以下、「控訴人」という。) 甲野太郎

昭和四六年(ネ)第一六六五号事件控訴人 (以下、「控訴人」という。) 甲野花子

右三名訴訟代理人弁護士 平沼高明

同 渡名喜重雄

同 服部訓子

同 安藤一郎

昭和四六年(ネ)第一六四二号事件控訴人 同年(ネ)第一六六五号事件被控訴人 (以下、「被控訴人」という。) 清水正二郎

右訴訟代理人弁護士 江口保夫

同 古屋俊雄

同 斎藤勘造

同 梶山公勇

同 松崎保元

昭和四六(ネ)年第一六四二号事件 同年(ネ)第一六六五号事件被控訴人 (以下、「被控訴人」という。) 今井成秋

右訴訟代理人弁護士 木村和夫

同 三浦守正

同 三野研太郎

主文

控訴人親栄プロパン株式会社、同甲野太郎、同甲野花子、被控訴人清水正二郎の各控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

被控訴人清水正二郎は、被控訴人今井成秋に対し金九九万一一六九円とこれに対する昭和四三年四月二四日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の、控訴人甲野太郎に対し金三五一万七二九〇円と内金三一九万七五三七円に対する昭和四五年八月二二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の、控訴人甲野花子に対し金一一〇万円と内金一〇〇万円に対する昭和四三年四月二五日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の各支払いをせよ。

被控訴人今井成秋の被控訴人清水正二郎に対するその余の請求、控訴人親栄プロパン株式会社に対する請求、控訴人甲野太郎、同甲野花子の被控訴人清水正二郎に対するその余の請求、被控訴人清水正二郎の反訴請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じて五分し、一を控訴人甲野太郎、同甲野花子、被控訴人今井成秋の各負担とし、その余を被控訴人清水正二郎の負担とする。この判決は、金員給付の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

被控訴人清水正二郎は、昭和四六年(ネ)第一六四二号事件について「原判決中、被控訴人今井成秋については全部を、控訴人甲野太郎については被控訴人清水正二郎敗訴部分を取消す。被控訴人今井成秋、控訴人甲野太郎の請求をいずれも棄却する。控訴人甲野太郎は、被控訴人清水正二郎に対し金一万四七〇五円とこれに対する昭和四五年五月二四日以降完済まで年五分の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人今井成秋、控訴人甲野太郎の負担とする。」との判決を求め、昭和四六年(ネ)第一六六五号事件について控訴棄却の判決を求めた。

控訴人親栄プロパン株式会社、同甲野太郎、同甲野花子は、昭和四六年(ネ)第一六六五号事件について、「原判決中、控訴人親栄プロパン株式会社、同甲野花子については全部を、その余の控訴人については敗訴部分を取消す。被控訴人今井成秋の控訴人親栄プロパン株式会社に対する請求、被控訴人清水正二郎の控訴人甲野太郎に対する反訴請求をいずれも棄却する。被控訴人清水正二郎は控訴人甲野太郎に対し金一四一六万三二五五円と内金一三七八万四七七八円(一三九八万四七七八円とあるのは誤記と認める。)に対する昭和四五年八月二二日以降、内金三七万八四七七円(一七万八四七七円とあるのは誤記と認める。)に対する昭和四六年五月二八日以降各完済まで年五分の金員を、控訴人甲野花子に対し金二二〇万円と内金二〇〇万円に対する昭和四三年四月二五日以降完済まで年五分の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、控訴人甲野太郎は、昭和四六年(ネ)第一六四二号事件について控訴棄却の判決を求め、被控訴人今井成秋は、昭和四六年(ネ)第一六四二号、同年(ネ)第一六六五号事件について控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に訂正附加するほか、原判決事実欄の記載と同一であるから、これを引用する。

(訂正箇所)≪省略≫

(控訴人親栄プロパン株式会社、同甲野太郎、同甲野花子の主張)

一  控訴人太郎は、身体障害の程度につき、労働者災害補償保険法施行規則障害等級表の第三級に該当するとの認定を受けた。

二  控訴人太郎の受けた傷害は、下半身麻痺、性交不能等、死に準ずる重大なものであるから、控訴人花子は、判例理論によれば、当然慰藉料請求権を有する。

三  控訴人太郎が被控訴人今井及び被控訴人清水から、自動車損害賠償保障法施行令別表第六級の保険金として、各一五〇万円(計三〇〇万円)の支払いを受けたことは、認める。

(被控訴人清水の主張)

一  控訴人太郎は、事故現場の横断歩道の手前約七、八メートルに差掛るや、急に被控訴人清水の車輛の後方から中心線を越えて同車輛の右側ドアを擦りながら前に割込み、急停車したため、被控訴人清水は避ける暇もなく控訴人太郎の車輛に追突したのであるが、控訴人太郎が、右のように、追越を禁止されている横断歩道の手前七、八メートルの所で中心線を越えて急に被控訴人清水の車輛の前へ出ることは、信頼の原則にも違反するのであるから、同人に過失はない。

二  控訴人太郎は、自動車損害賠償保障法施行令別表第六級の保険金として、被控訴人今井及び同清水から、各一五〇万円(計三〇〇万円)の支払いを受けた。

三  控訴人太郎が、その主張のような障害等級の認定を受けたことは、認める。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一  事故の発生

被控訴人今井が、昭和四三年四月二四日午后三時四〇分頃普通乗用車(横浜5か四三二五号)を運転して川崎市富士見町五二番地先の国道上を川崎市営埠頭から川崎駅方面へ向って西進していたところ、対向車線上を東進してきた被控訴人清水運転の普通乗用車(横浜5か八八一九号)が控訴人太郎運転の普通乗用車(横浜5ぬ四八六二号)に追突したため、同車輛が被控訴人今井の進路に侵入して同人の車輛と正面衝突したことは、当事者間に争いがない。

二  事故の原因

(一)  ≪証拠省略≫によると、次の事実、すなわち、事故現場は、二級国道一三二号線上で、車道の幅は二四メートルあり、片側を自動車四台が併進でき、交通量は多く、直線のため見通しは利き、信号機のない横断歩道が一箇所設けられ、衝突地点は、控訴人太郎の進行方向から見て中心線より二・六メートル対向車線に入ったところであること、被控訴人今井の車輛は、黄色で、前部を大破し、控訴人太郎の車輛は、黒色で、前部、後部を大破し、一回転の上、川崎駅方面(西)を向いて止まり、左後部フェンダー部分に長さ九七センチメートル、幅二三センチメートルの接触痕があって赤茶色の塗料が付着し、後部バンバーにとりつけられた衝撃除けゴムが左右ともとれ、後部バンバーとトランクには部分的に濃緑色の塗料が付着し、衝撃で開いた右ドアの先端部分が内側に曲っていること、被控訴人清水の車輛は、濃緑色で、前部バンバー中央部を境に両側に黒色ゴムを圧着した痕跡があり、その間隔は、控訴人太郎車輛の後部バンバーにとりつけられた前記ゴムの間隔と一致し、左前部に強い衝撃痕があり、左前照燈枠の上に赤茶色の塗料が付着し、右前ドアとフェンダー部分にかけて接触痕が、特に車体右中央部には控訴人太郎の車輛の右ドア先端部分の前記破損箇所とほぼ一致する強い衝撃の跡があること、本件事故当時、控訴人太郎の車輛の左前方には訴外浜野隆一の普通貨物自動車が停車していたが、その色は赤茶色で、右後部尾燈附近に衝突痕があるほか、右側荷枠後部には黒っぽい塗料の付着した別な接触痕があること、事故直前被控訴人今井の進路上に対向車線から出てきた車輛はなく、事故現場には被控訴人清水の車輛のスリップ痕はなかったことが認められる。

これらの事実に≪証拠省略≫を綜合すると、次の事実が認められる。

控訴人太郎は、国道一三二号線を東進し、事故現場より約一五〇メートル手前の交差点で赤信号のため一旦停止し、発進後は時速約四、五十キロメートルで進行し、間もなく事故現場に差掛ったところ、その横断歩道上を南から北に渡る歩行者があって、他の車輛とともに、同控訴人の車輛も、横断歩道の手前で停止した。このとき、被控訴人清水は、控訴人太郎の後方から時速約三、四十キロメートルで進行してきたが、前方を十分注視していなかったため、控訴人太郎の車輛が右のように停止したのに気づくのが遅れ、且つ道路交通法第二六条第一項に定める車間距離を保っていなかったので、避ける暇もなく控訴人太郎の車輛に追突し、同人の車輛は、その衝撃により、左前方に停車していた浜野の車輛の右側荷枠後部を擦りつつ対向車線に押出され、冒頭認定のように被控訴人今井の車輛と正面衝突するに至り、なお、被控訴人清水は、自車の左前照燈附近を更に浜野の車輛の右後部尾燈附近にも衝突させた。

以上のとおり認められ(る。)≪証拠判断省略≫

(二)  被控訴人清水は、右追突の原因は、控訴人太郎が事故現場の横断歩道の手前約七、八メートルの所で急に被控訴人清水の車輛の右側ドアを擦りながら前に割込んで急停車したことにあると主張し、同人の車輛の右前ドアとフェンダー部分に接触痕があり、殊に車体右側中央部に強い衝撃の跡があることは、前認定のとおりである。

しかし、若し同人の主張のとおりであるとすれば、控訴人太郎の車輛左側にもそれを裏づける接触痕がなければならないが、これは見当らないばかりでなく(控訴人太郎の車輛左後部フェンダー部分にある前示接触痕は、右部分に付着している塗料の色が赤茶色で浜野の車輛の色と一致し、同車輛の右側荷枠後部には黒っぽい塗料の付着した接触痕があって、これは控訴人太郎の車輛の色と一致するところからすれば、同車輛が前認定のように追突されて浜野の車輛と接触したときに生じたものと認められる。)、かえって前述のように、控訴人太郎の車輛右ドア先端部分の破損箇所と被控訴人清水の車輛の車体右側中央部にある衝撃の跡が一致することからすれば、同車輛の前示接触痕と衝撃の跡は、控訴人太郎の車輛が前述のように一回転したとき、衝撃で開いた右側ドア先端部分との接触により生じたものと見るべきである。また、控訴人太郎の割込みのため被控訴人清水が追突したのであれば、控訴人太郎は、時速三、四十キロメートルで進行している被控訴人清水の車輛を横断歩道の手前わずか七、八メートルの所で追越して横断歩道の直前で停車したことになるが、このようなことは、控訴人等の指摘するとおり、経験則上不可能と考えられ、≪証拠省略≫によっても、右割込みの事実はないと認められるから、被控訴人清水の前記主張は到底採用し難く、この点に関する≪証拠省略≫は、右各証拠に照らし、信用することができない。

(三)  前示認定によれば、被控訴人清水が前方注視義務を怠らず、且つ所定の車間距離を保っていたならば本件事故は防ぐことはできたものと認められるから、本件事故は、もっぱら被控訴人清水の過失に基づくものであって、控訴人太郎に過失はないものというべく、この判断をくつがえすべき的確な証拠は、ついに見出すことができないものというほかない。そして、控訴人太郎運転の車輛が控訴会社の所有であることは、同会社の認めるところであるが、同車輛に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことは、弁論の全趣旨により推知し得るから、本件事故により被控訴人今井の受けた損害については、被控訴人清水のみがその賠償の責に任ずべく、控訴人太郎、同花子の受けた損害についても、被控訴人清水において同様賠償の義務を負うものというべきである。

三  被控訴人今井の損害

(一)  ≪証拠省略≫によると、同人は、頭部、顔面、頸部、左上腕、肘、前腕、手背、右腰部各挫傷及び脳震盪症の傷害を負い、花園橋病院に昭和四三年四月二六日から六月三〇日まで六六日間入院し、同年七月一日から翌四四年四月三〇日まで通院治療を受け(治療実日数二〇六日)、入院治療費二三万三七七五円、通院治療費四六万七三一〇円、通院交通費六万七九七〇円計七六万九〇五五円を支出したこと、また同人は、大栄自動車交通株式会社にタクシー運転手として勤務し、一日平均二〇二四円、一箇月平均六万七三三円の給与を受けていたが、事故の翌日昭和四三年四月二五日から翌四四年一月末まで働けなかったので昭和四三年四月二五日から三〇日までの六日間に一万二一四四円、同年五月一日から翌四四年一月末日までの九箇月間に五四万六五九七円計五五万八七四一円の給与を失い、また、昭和四三年度分の夏期賞与及び年末の一時金として計六万三三七三円の支給を受けられなかったことが認められる。

そして、≪証拠省略≫によれば、被控訴人今井の身体障害の程度は、労働者災害補償保険法施行規則障害等級表の第一二級に該当するものと認められるが、≪証拠省略≫によると、同人は、昭和四四年二月からは二、三時間働いては休むという風にすればタクシー運転手として勤務できるようになったところ、そのような勤務の仕方によっても収入は従前と差異はなかったこと、しかるに、同人は、その後昭和四四年五月一三日再び追突事故に遭い、このため、折角始めたタクシー運転手としての勤務も続けることはできなくなったことが認められるから、同人が本件事故のため昭和四四年二月以降一年間はなお収入半減の状態が続いたという主張は、根拠に乏しく、従って、これを前提とする同被控訴人の損害の主張は、理由がない。

(二)  次に、本件事故の態容、傷害の程度、入院及び治療の期間、身体障害の等級を勘案するとき、その慰藉料は、六〇万円をもって相当と認める。

(三)  以上を合計すると、被控訴人今井の損害額は、一九九万一一六九円であるが、その受領した強制保険金一〇〇万円を同人の主張に従って控除すると残額は九九万一一六九円となる。

四  控訴人太郎の損害

(一)  ≪証拠省略≫によると、控訴人太郎は、本件事故により右大腿骨々折、骨盤骨折、右第五腰椎横突起骨折、仙髄損傷の傷害を受け、事故当日の昭和四三年四月二四日から七月三一日まで川崎市立病院に、同年八月一日から翌四四年七月一二日まで伊豆韮山温泉病院に入院してそれぞれ治療を受け、入院治療費として川崎市立病院に九四万九二一九円、伊豆韮山温泉病院に一四〇万九一五円を支払い、伊豆韮山温泉病院における付添婦の費用として六三万八〇四三円を支出したこと、川崎市立病院に入院中の九八日間(入院期間は、九九日であるが、同控訴人は、うち九八日間についてのみ主張するので、その限度で認定する。)看護のため妻が付添ったことが認められるところ、その費用として同控訴人主張の九万八〇〇〇円(一日一〇〇〇円)を計上することは、相当であるから、以上の合計は、三〇八万六一七七円となる。

また、≪証拠省略≫によると、同控訴人は、控訴会社に営業部長として勤務し、一箇月七万二〇〇〇円の給与を受けていたが、本件事故による傷害のため、昭和四三年五月から昭和四五年五月まで二五箇月間は働くことができなかったため、その間の給与一八〇万円の支払いを受けることができず、同額の損害を蒙ったことが認められる(右の期間の賞与については、これを支払った旨の≪証拠省略≫もあり、その支払いを受け得なかったことを認めるに足りる的確な証拠はない。)。

(二)  しかし、控訴人太郎が、その主張のように、五四才以降の一〇年間は全く労働能力を喪失するという同控訴人の主張については、これを肯認することができない。けだし、同人の現在の症状は、後記認定のとおりであるが、≪証拠省略≫によれば、同人は、現在控訴会社の親会社である○○石油株式会社に○○課長として勤務し、月額一三万円の給与を受け、昇進は困難であるとしても、地位は安定していることが認められるので、他に的確な証拠がない以上、将来果して右のような事態を招来するものであるかどうかについては予測することが困難であるからである。

(三)  進んで、慰藉料について、判断する。

≪証拠省略≫によれば、同人には、後遺症として、脊髄損傷による膀胱障害、排尿障害、両下肢の筋力障害及び知覚障害があり、歩行は松葉杖に頼るほかなく、排便、排尿の機能は失われ、常時集尿袋の携帯を余儀なくされ、性交も不能であること、同人は労働者災害補償保険法施行規則障害等級表の第三級に該当するとの認定を受けたこと(この点は被控訴人清水との間において争いがない。)が認められ、右の事実と本件事故の態容、入院及び通院の期間を綜合するとき、控訴人太郎の慰謝料は五〇〇万円をもって相当と認める。

(四)  以上(一)と(三)の金額を合計すると、控訴人太郎の損害額は、九八八万六一七七円になるところ、控訴人太郎が自動車損害賠償保障法に基づき治療費として七三万九六五七円、休業補償として一八万三二二二円、慰藉料として七万七一二一円、後遺障害第六級の分として三〇〇万円(被控訴人今井、同清水の両者から各一五〇万円)の支払いを受けたことは被控訴人清水との間で争いがなく、労働者災害補償保険法により二六八万八六四〇円の給付を受けたことは≪証拠省略≫によって認められるから、右の合計六六八万八六四〇円を損害額から控除すると、残額は三一九万七五三七円となる。

(五)  最後に、弁護士費用について検討するに、控訴人太郎が本訴担当の弁護士に対し報酬として請求金額の一割を支払うことを約したことは弁論の全趣旨により認められるところ、本件事件の難易度及び訴訟物の価額等に照らし、右報酬は、前記損害額の一割に当る三一万九七五三円の限度で損害と認めるのが相当である。従って、控訴人太郎の損害は合計三五一万七二九〇円となる。

五  控訴人花子の損害

控訴人花子が昭和三四年五月四日控訴人太郎と婚姻し、同人との間に二児を儲けたことは被控訴人清水との間において争いがなく、≪証拠省略≫によれば、控訴人花子は昭和九年一一月二六日生れ、控訴人太郎は昭和二年一月九日生れであることが認められるところ、控訴人太郎の当審尋問の結果によれば、同人は、本件事故による傷害のため、前認定のように性交能力を喪失し、妻である控訴人花子と最早夫婦としての性的生活を営むことは不可能になったことが認められる。このことは、控訴人花子の右年令から考えて同人に対し相当な精神的苦痛を与えているものと認められ、この苦痛は、いわば同人固有の損害であって、夫である控訴人太郎に対する慰藉料によっては償い切れないものであるということができる。従って、控訴人花子は、控訴人太郎とは別個に、右苦痛に対する慰藉料請求権を有するものというべきであり、その金額は一〇〇万円をもって相当と認める。

また、控訴人花子が本訴担当の弁護士に対し報酬として請求金額の一割の支払いを約したことは弁論の全趣旨により認められるところ、控訴人太郎の場合と同様の理由により、右報酬のうち慰藉料額の一割に当る一〇万円をもって損害と認めるべきである。従って、控訴人花子の損害は、合計一一〇万円となる。

六  以上説示したところによれば、被控訴人清水は、被控訴人今井に対し九九万一一六九円とこれに対する本件不法行為の日である昭和四三年四月二四日以降完済まで民法所定年五分の損害金を、控訴人甲野太郎に対し三五一万七二九〇円と内金三一九万七五三七円に対する昭和四五年八月二二日(原審における請求の趣旨拡張申立書送達の日)以降、完済まで同じく年五分の損害金(弁護士費用については、遅延損害金の請求を認めない。)を、控訴人甲野花子に対し一一〇万円と内金一〇〇万円に対する本件不法行為の日の翌日である昭和四三年四月二五日以降各完済まで同じく年五分の損害金を支払うべき義務があるものというべきである。従って、被控訴人今井、控訴人甲野太郎、同花子の被控訴人清水に対する請求は、右限度において正当であるが、その余は失当であり、被控訴人今井の控訴人親栄プロパン株式会社に対する請求、被控訴人清水の控訴人甲野太郎に対する反訴請求は、いずれも理由がないものというべきである。

よって、右と結論を一部異にする原判決は、右の趣旨に変更し、被控訴人清水の本件控訴は、理由がないから、棄却すべきものとし、民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文、第九六条、第一九六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺田治郎 裁判官 福間佐昭 宍戸清七)

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